わたしは裸のまま、教室の隅で途方に暮れた。もし携帯があったら、だれか友だちを──凪沙ちゃんとかを呼んで、制服を取ってきてもらうことができたかもしれない。でも、こんなことになるなんて思ってなかったから、カバンは教室に置いてきてしまっていた。教室にはまだ人が残ってるだろうから取りに行くこともできない。
このまま制服が誰にも拾われないことを祈りながら、下校時間になるまで待つしかないのかな……。わたしが絶望的な気持ちになっていると、廊下の方から男子と女子の声が聞こえてきた。言い合いをしながらこっちに来ているみたいだった。
わたしはびっくりして、隠れる場所を探す。そんなことはあんまりないと思うけど、もしこの教室に入ってきたら……。わたしはとっさに目についた掃除用具入れを開けて、中に入り、内側から音を立てないようにドアを閉めた。
使われていない教室だからか、用具入れには掃除道具は入っていなかった。通気のための穴が上の方に開いていて、限られた視界で外の様子が見える。
「お、ちょうど空いてるな。ここでやろうぜ」
男子のそう言う声が聞こえて、心臓がびくっと跳ねる。おねがい、入ってこないで……。わたしは祈るような気持ちで、用具入れの狭い空間の中で息を殺す。でも、わたしの祈りは、彼らには届かなかった。
男子がドアを開ける。それからもう一人の男子と、彼らに無理やり連れて来られるようにして女子が一人、教室に入ってきた。わたしはその女の子の顔を見て、息をのむ。
(凪沙ちゃん……っ!?)
誰よりも一緒にいるわたしが見間違うはずもない。わたしの親友の凪沙ちゃんだった。男子たちには見覚えがなかったけど、校章の色からして三年生だとわかった。
「……、放してっ!」
凪沙ちゃんは男子の手を振りほどく。ここに連れてこられるのをすごく嫌がっているように見えた。男子は教室のドアを閉め、いやらしい笑みを浮かべながら凪沙ちゃんを見ていた。
なんだかすごく嫌な予感がする……。
「相変わらず生意気だなあ。ついこの前、中出しセックスした仲じゃないか。あれは気持ちよかったなあ」
凪沙ちゃんはわたしが見たことないような、敵意のこもった表情で男子たちを睨んだ。
「あんたたちが無理やりしたんでしょ……」
「そうだったか? その割には、お前もずいぶん気持ちよさそうだった気がするけどなぁ」
男子のとぼけるような言葉に、凪沙ちゃんは冷たく言った。
「あたしは気持ちよくなんかなってない。勝手なこと言わないで」
男子は面白がるように笑みを浮かべて、スマホを操作する。凪沙ちゃんの言葉を遮るように、スマホから音声が流れ出した。わたしからは見えないけど、きっと凪沙ちゃんは映像も見せられているんだろう。
『んっ、んっ、んっ、ああん……っ!♡ あうぅ……っ、んんああああああぁぁぁ……っ!!♡』
聞こえてくるのは、たぶんえっちなことをしているときの、女の子の色っぽい声だった。媚びるような甘い喘ぎ声で、凪沙ちゃんがこんな声を出すはずがないとわたしは思う。
「これが気持ちよくなってない奴の反応か?」
「……っ」
凪沙ちゃんは顔を赤くしてうつむいた。わたしはその反応から、あの声が凪沙ちゃんのものなんだと分かってしまう。凪沙ちゃんがあんな声を出しながら、男子とえっちなことをしている姿を想像してしまい、あわてて頭から追い出した。大好きな親友のそんなことを考えるなんて、ぜったいにやっちゃだめだ。
「へへ、よく撮れてるよなぁ。俺毎日この動画でシコってるんだぜ。その辺のAVより全然抜けるよな」
しこってるとか、ぬける……っていうのが、何なのかわからないけど、たぶん凪沙ちゃんを辱めるために言っているんだってことはわかった。凪沙ちゃんは何も言い返さないで、男子の見せる動画から目をそむけていた。言いたい放題にされてるなんて、凪沙ちゃんらしくない。
男子は動画を再生したままスマホを机の上に置いて、凪沙ちゃんに近づいた。凪沙ちゃんはその場に体をぬい付けられてしまったように立ったまま、二人の男子に囲まれてしまう。
「なあ、またヤらせてくれよ。気持ちよくしてやるからさぁ」
「……嫌に決まってるでしょ」
凪沙ちゃんは拒否したけど、その声がほんの少し震えていることにわたしは気づく。男子たちに囲まれて、凪沙ちゃんも怖がってるんだ……。わたしは歯がゆい思いに駆られる。今すぐ出ていって、助けてあげたい。でも、わたしなんかじゃ男子にかなうはずがないし、何よりいまわたしは裸で、そんなことをする勇気はなかった。親友がいじめられてるのを見てるだけなんて、悔しい……。
「そうかよ。まあ、お前に拒否権なんかないけどな。あの動画がどうなるか考えろよ」
凪沙ちゃんはびくっと肩を震わせる。そして震えを抑えるように、自分の体を抱いた。
「……っ、あんたたち、ほんと最低……」
「へへ、いいなあその態度。強気な女を犯して泣かせるのが一番チンコに来るんだよなあ」