「へへへ……ほんとにエロい格好だよなあ。見てるだけで勃起してくる」
男は葉月のユニフォーム姿をいやらしい目で見下ろしながら、そう言った。その言葉を聞いて、葉月はずっと抱いていた疑念が確信に変わる。
(やっぱり、みんなのこと、いやらしい目で見てたんだ……! ほんとキモい……)
女子陸上部のユニフォームはセパレート型で、腕もおなかも太ももも大胆にさらけ出されている。普段からショートパンツを履いたりする葉月でも、最初に袖を通すときは少し恥ずかしかったのを覚えている。でも、0.01秒でも速く走るためだから、と思って葉月はそれを着ていたし、他の部員たちもそのユニフォームで練習をしていた。
それなのに……頑張っている女の子たちの姿を、コーチが性的な目で見ているなんて……。葉月は男の卑劣さに、怒りが湧いてくる。葉月が男を睨みつけると、男はそんな葉月の憤りを楽しむように言った。
「知ってるか? お前らのユニフォーム姿を見物するために大会に来てる奴もわんさかいるんだぞ。花井みたいな顔もカラダもいい奴は、間違いなく盗撮されるだろうなあ」
葉月は、陽菜が大会に向けてとてつもなくがんばっていることを知っている。そんな陽菜の努力を踏みにじるようなことをするなんて、葉月には絶対に許せなかった。目の前にいるコーチも、そんな男たちと同じ……。そう思うと、葉月は男を軽蔑したくなる。
「へえ、よく見るとお前もなかなか悪くないカラダしてるじゃないか」
葉月のそんな気持ちにも構わず、男は葉月のからだにそんな品評をする。葉月は陽菜のように男たちの視線を集めるようなタイプではなかったが、スポーツ少女らしいからだつきは、よく同性からうらやましがられていた。ユニフォームからすらりと伸びた彼女の足には、余分な脂肪がいっさいついていない。それに、露出したおなかはほどよく引き締まっており、自分でも自信を持っているパーツのひとつだった。
男の視線は、彼女のスレンダーな肢体を舐め回すようにじっくりと這い上がっていく。
(ほんとに気持ち悪い……っ!)
男の視線に嫌悪感を抱きながらも、葉月は見られるのに耐える。しかし、男は彼女を視姦するだけでは飽き足らず──彼女のユニフォームから露出した素肌に直接触れてくる。
「……っ、やめて……っ!」
葉月が男から身を離して抵抗しようとすると、男は陰湿な口調で言った。
「おいおい、抵抗するなよ。お前が俺の指導を受けたくないっていうんなら話は別だけどなあ」
「……っ」
男の言葉に、葉月のからだから力が抜けてしまう。こんなの指導なんかじゃない……。でも、そんなことを言えば、男がどうするかは明らかだった。
セクハラをされても、何の抵抗もできない──葉月は男を睨んだが、男はニヤニヤ笑っているだけだった。そして、男は彼女の正面に立ったまま、太ももに手を沿わせて撫で回し始める。
「……っ」
男の気持ち悪い触り方に、葉月の肌があわ立つ。男は彼女の足の滑らかな肌の感触を楽しみながら、耳元で囁いた。
「綺麗な足じゃないか。お前は制服のスカートも短くしてたなあ。よく男にじろじろ見られてるんじゃないか?」
それは、葉月が最近気にしていることだった。凪沙のまねをしてスカートを短くしたはいいものの、痴漢に遭って辱めを受けてから、葉月は男の視線に敏感になっていた。それ以降、電車の中で男たちが彼女の足を見ていることにも気づいてしまって──男たちが、自分のことをいやらしい目で見ているんじゃないかと、複雑な気持ちになっていた。
「……っ、う、うるさい……っ!」
そのことを男にからかわれ、葉月は恥ずかしくなってそう言った。男は彼女の初々しい反応に笑みをこぼしながら、淫猥な手つきで徐々に彼女の足から手を這い上がらせていく。そして、レーシングブルマの上から、彼女の秘所のあたりに男の手が触れる。
「……っ、ん……っ」
彼女は一瞬だけ、ぴくっとからだを反応させてしまう。男はそんな彼女を楽しみながら、そのままユニフォームに覆われた彼女のおしりを、ねっとりと撫でた。
「へへへ……花井と違って、お前のは小ぶりだな。あいつのはもっと触りがいがあるんだがなあ」
「……っ」
そんなことを言う男に、葉月はまた怒りが湧いてくる。
(陽菜にこんなふうにセクハラして楽しんでたなんて、許せない……!)
葉月は男の手つきに反応してしまわないように我慢する。しかし、男は執拗に、彼女の足やおしり、そして秘所の上を撫で回し続けた。その手つきに、彼女は少し前に痴漢に辱めを受けたときのことを思い出しそうになり……慌てて首を振って追い払った。
「へへ……どうした? 息が荒くなってきてるぞ」
男は葉月の反応に目ざとく気づき、彼女にそう言った。葉月は男に強気な視線を向けながら言い返す。
「……っ、あんたの触り方が気持ち悪いからでしょ……っ」
葉月の反抗的な言葉を、男はバカにするように笑った。そして、彼女を辱めるように、例の動画のことを言う。
「へへ、嘘つくなよ。お前こんな風に触られるの好きなんだろ? あんな痴漢モノのAVに出てたぐらいだしなあ」
「ち、ちがう、こんなの好きじゃない……っ! ボクは、無理やりされて、撮られただけで……」
そのことを引き合いに出されると、葉月は恥ずかしい思いに駆られる。葉月自身も、女の子が痴漢をされているシチュエーションのアダルトビデオを見てしまったことがあるが、それは見るからに演技だった。しかし、見知らぬ男にからだを触られて、ひどいことをされた自分の動画も、男たちにはあれと同じ「痴漢モノのAV」に見えてしまっている……。
葉月がそう言うと、男はまた彼女を辱める種を見つけたようにニヤニヤ笑う。
「へえ、じゃああの動画、ガチなのか。お前が痴漢に触られたりレイプされたりして、何回もイってたのも演技じゃないんだなあ」
男に言われて、葉月はそのときのことを思い出してしまう。電車の中で痴漢に脅されて、からだを触られて、イかされて……そして、トイレの個室に連れ込まれたあとも、ひどいことをされているのに何度も絶頂してしまった。痴漢の男にすべて撮られてしまったから、動画にもその姿は写っていて──それが売られていると思うと、葉月はとてつもなく情けない気持ちになる。
「お前のエロ動画、けっこう売れてただぞ? お前が痴漢で気持ちよくなってる姿を見て、何百人って男がシコってるのかもなあ」
「……っ」
男の言葉に、葉月の耳が赤く染まる。嫌いなコーチに見られたというだけで、すごくショックだったのに──あの動画を買ったたくさんの男たちにも、性的な目で見られてる……。そう思うと、葉月は恥ずかしくてたまらなくなる。何も言い返せず、黙ってうつむく葉月を見て、男は優越感に浸るような表情をする。そして、葉月のおしりに当てていた右手を、彼女の小さな胸に触れされた。
「……っ、いや……っ!」
葉月は反射的にからだをよじって、男の手を離そうとする。しかし、男はすぐに葉月に囁いた。
「おい、何抵抗してるんだ? もし次やったら、お前のエロ動画のことチクるからな」
「……っ」