雨の日は、葉月にとって憂鬱だった。
グラウンドが使えないから、陸上部の練習は体育館でのトレーニングがメインになってしまう。走ることのできない練習は、葉月には退屈で仕方なかった。それに──
「……っ、ふ……っ、ふ……っ」
部活前、葉月はコーチに呼び出され、「これを付けたまま練習しろ」と親指よりも少し太いくらいの道具のようなものを渡されたのだ。コーチの男に弱みを握られている葉月は、それに従うことしかできなくて──今日の練習は、それを秘所に入れたままさせられていた。それは秘所がいっぱいなるほど大きいものではなかったが、からだの中に異物を入れていると思うと少し心地悪かった。
からだを動かすたびにその存在感を感じて、わずかに息が乱れる。でも、こんなことで部活を邪魔されたりしたくないから……陽菜とペアになってトレーニングをしながら、葉月はなるべくその道具のことを頭の隅に追いやろうとしていた。
そんなことを考えながら腹筋運動をしていると、葉月の足を押さえている陽菜がぽつりと言った。
「葉月ちゃん、おなかすっごくきれい……」
「へ?」
いきなり思いもよらないことを言われて、葉月の口から間の抜けた声が出る。ペースよく動かしていたからだも、上体を起こしたまま固まっていた。陽菜ははっとして、ユニフォームからさらけ出されている葉月のおなかから視線を引き剥がす。
「あ、ご、ごめん! あんまりそんなとこ見られるの嫌だよね……」
そう言って、陽菜はしゅんとしてしまう。けれど、ほどよく筋肉がついて引き締まっているおなかには、葉月も自信を持っていた。それに、男にいやらしい視線を向けられるのは不快だったが、同性にあこがれ混じりの目で見られるのが嫌なばずない。
「ううん、陽菜なら全然嫌じゃないよ。ありがと」
親友に面と向かってほめられて、少し照れくさくなりながら葉月はそう言う。陽菜はほっとしたように顔をほころばせた。
体幹トレーニングを中心としたいつもの雨の日のメニューをこなしていると、葉月のからだは少しずつ汗ばんでくる。いつの間にか、秘所に入っているものの存在も忘れかけていた。しかし……葉月がプランクをしている最中に、それは突然小さく振動しはじめた。
「……っ、ん……っ」
あそこの中で小さな虫が羽を動かすような感触に、葉月の全身に鳥肌が立つような感覚が走る。葉月がコーチの方に目をやると、男はニヤニヤしながら彼女を見ていた。きっと、コーチがリモコンみたいなもので、動かし始めたんだ──葉月はそう思う。
(……っ、練習中にこんなことしてくるなんて最悪……っ!)
コーチにいら立ちながら、葉月はその振動を我慢する。敏感な場所への刺激に、からだから力が抜けてしまいそうになって──それでも、葉月はきっちり一分間姿勢を維持しつづけた。
「……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」
笛が鳴って、葉月は膝をつく。いつもなら、一分間のプランクくらい、こともなげにこなす葉月だったが……機械の刺激のせいで、彼女の額には汗が浮かんでいた。
「は、葉月ちゃん、どうしたの? 顔、真っ赤になってる」
「……っ、そ、そう?」
横で同じトレーニングをしていた陽菜がそう声をかけてくる。これくらいのトレーニングで息を乱すような葉月ではないことは、いつも近くで見ている陽菜もよく知っていて──だから、葉月の異変にはすぐに気づいたようだった。
「調子よくないなら、今日はやめにしようよ。大会までにからだ壊しちゃったらだめだし……」
「……っ、大丈夫だから……」
陽菜の心配を振り切って、葉月はそう言う。もし今練習を投げ出したりしたら、こんな責めに負けたことになる……。最低なコーチなんかに負けるのは、絶対に嫌だった。
振動を我慢しながら、葉月は立ち上がる。次はスクワット──。
笛の音に合わせて腰を落とすと、機械の先端があそこの壁にこすれて──その刺激に、足が震えてしまう。そんな彼女の姿を見ながら、コーチの男は葉月に歩み寄ってくる。
「おい、星川、お前手抜いてるんじゃないだろうな?」
「……っ」
男は陰湿な笑みを浮かべながら、葉月を見下ろしてそう言う。こんなふうになっているのは、男がつけろと言ってきた機械のせいなのに……。葉月は男を睨みつけた。
「こ、コーチ……。葉月ちゃん、体調悪そうだから……」
陽菜が彼女をかばうようにそう言う。しかし、男はニマニマと笑ったままだった。
「へえ。そうなのか? 星川」
「……っ、ち、違います……、んん……っ!」
葉月が答えようとするタイミングで、男は葉月の秘所の機械の振動を強くする。葉月はからだをびくっと震わせながら、小さく声を漏らしてしまう。
「なら手を抜いたらダメだよなあ。ほら、そのままキープしてみろ」
「……っ!」
あそこへの刺激に苛まれる葉月をいじめるように、コーチはそう言った。でも、「無理」なんて言ったら、男に負けたことになるから──葉月はコーチの男に強い視線を向けたまま、言われたとおり腰を下げたまま動きを止めた。
「……っ、く……っ、ふ……っ、んん……っ!」
下半身に力を入れないと姿勢をキープできないせいで、秘所も自然に力んでしまう。葉月のその場所は、意図せず機械をくわえ込んでしまって……振動が響くように伝わってくる。少しでも気を抜くと、力が抜けてへたり込んでしまいそうで──葉月は、奥歯を噛みしめながら耐えた。しかし、そんな彼女を男はさらに追い込もうとする。
「もっと腰下げろ」
「……っ、く……っ、んぅ……っ!」
男に言われるがまま、葉月は足を震わせながら、さらに腰を落とした。さっきより苦しい体勢にさせられて、葉月の首筋に汗が垂れる。鼻にかかったような吐息が彼女の口から漏れていた。
しかも、からだを動かしたせいで、秘所の機械がまた別のところに当たってしまって──その刺激は、彼女のからだにずっと蓄積されていて、もうほとんど限界だった。
「や、やめてくださいっ、コーチっ、わ、わたしが代わりにしますから……っ!」
つらそうな葉月の表情を見て、陽菜はコーチにそう訴える。しかし、男はそれを少しも相手にしなかった。そして、ポケットの中に入れたリモコンで、とどめを刺すように葉月の秘所の機械の振動を強くする。
「……っ、んあぁぁ……っ、んんんんん……っ!」
今の葉月がそんな刺激に耐えられるはずもなく──声を必死にかみ殺しながら、葉月はびくびくっとからだを震わせる。その瞬間、足から力が抜けて、葉月はその場に膝から崩れ落ちてしまう。息を荒げながらへたり込む葉月を、見下ろしてあざ笑いながら男は言った。
「へへ……おい星川、お前最近たるんでるんじゃないか? 今から指導室に来い。みっちり指導してやる」
「……っ」
男の言葉に、葉月の肩がぴくっと震える。顔を上げると、部員だけでなく、体育館で練習をしていた他の部の生徒の視線も彼女に集まっていた。こんな場所で、達してしまうなんて──。恥ずかしくて、今すぐこの場から逃げ出したくなってしまう。
「……っ、はい……」
葉月は力なくそう言って、ふらつきながら立ち上がった。そして、男に手を引かれるまま、体育館から連れ出されていった。
