凪沙ちゃんは放課後チア部の練習があって、だいたい夕飯時まで帰ってこない。わたしは今日は部活がないから、そのまま寮に帰る予定だったけど……ちょっと気がかりなことがあって、空き教室にクラスの男子を呼び出していた。
今日の休憩時間中、わたしの前の席でクラスの男子が何人か集まって、こそこそ何かをやっていた。気になってちらっと覗いたら、男子たちはえっちな動画を見ていたのだ。しかも、それはただのえっちな動画じゃなくて、映っていた子が凪沙ちゃんにすごく似ていた。
わたしはその男子のことがあまり得意ではなかった。休憩時間や授業中、凪沙ちゃんのことをじろじろと見ていることがあるのだ。凪沙ちゃんはわたしよりスタイルもいいし美人だから、見とれてしまうのはわかる。でも、その男子の視線は少し違うような気がする。見とれると言うよりは──えっちな目で見ているような感じだった。
凪沙ちゃんもその男子のことが苦手って言っていたし、わたしはその動画の女の子が凪沙ちゃんだとは思いたくなかった。しかも、女の子は好きな人とえっちなことをしているというよりは、無理やりやらされているようだった。でも……ちらっと見えただけだけど、わたしには別人だとは思えなかった。凪沙ちゃんとわたしは、寮の部屋も同じで親友だから、わたしは誰よりも凪沙ちゃんのことを知っていると思う。そんなわたしが、別の子と凪沙ちゃんをまちがえるはずなんかない。
もしかしたら、本当にただの別人かもしれない。でも、もし凪沙ちゃんだったら……。それで、隠れて付き合ってるとかなら別にいいんだけど、もし凪沙ちゃんが一方的に変なことされてるんだとしたら、そんなの絶対許せない。それに、付き合ってるにしても、凪沙ちゃんのあんな動画をみんなで見るなんて、凪沙ちゃんは嫌に決まってる。凪沙ちゃんの親友として、男子にやめるように言わないと……!
一日中いろんなことを考えて迷った挙げ句、わたしは男子にLINEを送った。ほんとに凪沙ちゃんの動画だったらすごく悲しいけど……きっとわたしの思い込みだから、大丈夫。そう思って、わたしは空き教室に向かった。
***
わたしが空き教室で少し待っていると、クラスの男子はすぐやってきた。男子の後ろで教室のドアが音を立てて閉まる。男子は無愛想にわたしに言った。
「なんだよ、こんなところに呼びつけて」
「……今日教室で、変な動画見てたでしょ。あれは何?」
男子は特に驚いた表情を見せなかった。わたしがその質問をすることを予想していたみたいだった。
「変な動画? 何のことだろうな」
「とぼけないで。凪沙ちゃんに似た子が、その……え、えっちなことしてる動画」
わたしが怒りと恥ずかしさで顔を赤くして言うと、男子はニヤニヤ笑いながら言う。
「ああ、あれのことか。美沢に似たっていうか、美沢だからな」
「……っ!」
「ちなみにこういうのもあるぞ」
男子はスマホを操作して、わたしに画面を見せてくる。そこには、裸で何人かの男に囲まれているわたしの姿が映っていた。そのわたしは、泣きながら男たちに犯されていた。中学生のときの嫌な記憶がよみがえりそうになる。
わたしがスマホを奪い取ろうとすると、男子はそれをさっとわたしの手の届かないところに掲げた。わたしは男子を睨んだ。
「……なんでそんなの持ってるの」
「さあな。で、何だよ、お前も美沢の動画ほしいのか?」
「ほしいわけないでしょ! 今すぐ消して!」
「無理だな。一本消したところで意味ないし」
「……っ」
それは、別の場所にも保存しているということだろうか。それとも──凪沙ちゃんやわたしの動画を他にも持っているということだろうか。
「凪沙ちゃんに何したの……?」
「ちょっとお前の動画を見せてやっただけだよ。そしたらいきなり言うこと聞くようになってなあ。オナホ代わりに重宝してるんだ」
「脅したんでしょ! 最低……っ!」
凪沙ちゃんは、寮でも教室でも、わたしのことを妹みたいに大切にしてくれている。もし男子がわたしの動画を見せて、それをばら撒くとかそういうことを言ったら、男子の言うことを聞いてもおかしくない。わたしのせいで、凪沙ちゃんが男子に変なことをされている──わたしはそのことを知って、目の前が真っ暗になる。
「何とでも言えよ。まあ、お前の動画が原因なのは変わらないけどな」
わたしの怒りをせせら笑い、用は済んだとばかりに男子は教室を出ていこうとする。
「け、警察に……」
「あのさ、お前自分の立場わかってんの? 警察沙汰になったら、俺がお前と美沢の動画をどうするかとか考えないのかよ。まあお前はともかく、美沢は校外でも人気だからなあ。巨乳美少女チアJKってな」
「……っ」
きっと男子は凪沙ちゃんもこうやって脅したんだろう。そして、わたしにはもう何も言えることがなかった。
「ま、待って!」
わたしは男子を呼び止めた。そして、縮こまりそうになる声を振り絞って男子に言う。
「わ……わたしが、代わりになるから……凪沙ちゃんに変なことするの、もうやめて……」
中学生の時に、男のひとたちに犯されたときのことを思い出して、足が震える。でも、凪沙ちゃんがわたしのせいで男子に辱められてるんだとしたら、それはわたしが辱められるのよりつらい。
でも、男子はわたしの言葉を一蹴した。
「お前が美沢の代わり? 笑わせるなよ、そんな貧相な身体で代わりになるわけないだろ」
「……っ」
わたしが気にしていることをずけずけと言われ、泣き出しそうになる。凪沙ちゃんはクラスで一番おっぱいも大きいし、美人だし──それに比べて、わたしはいまだに中学生に間違われるくらい、おっぱいも背丈も育ってない。
でも、わたしは男子に食い下がった。
「……お、おねがいします……、ど、どんな命令も聞くし、恥ずかしいこともするから……」
わたしはうつむいてぎゅっと目を閉じて、恥ずかしさに耐えながらそう口にする。男子はそこでやっと振り向いた。
「へえ。じゃあ今すぐ服脱いで土下座しろよ。撮っといてやるから」
「え?」
わたしは男子の言った言葉の意味がすぐには理解できなかった。男子が今ここで、わたしに辱めを与えようとしているのだとわかり、わたしは戸惑う。あんなふうに言ったけど、心の準備が全然できていない。
「ま、やらないならこの話はナシだな。俺は美沢のほうがいいし。所詮その程度ってことだろ」
「……っ」
もう悩んでいる暇なんてない。わたしは唇を噛んで言った。
「や、やる! やるから……っ」